国内畜産業/新型原子炉/三菱商事/アルツハイマー病治療薬 ~評価基準の歪みが招いた悲劇
・国内畜産業 霜降り至上主義、和牛受難
・新型原子炉 安全性高めた新型原子炉開発へ
・三菱商事 大規模アンモニア製造のプロジェクト参画を検討
・アルツハイマー病治療薬 「レカネマブ」治験で有効性確認
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▼評価基準の歪みが招いた悲劇
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日経新聞は先月26日、
「霜降り至上主義、和牛受難」と
題する記事を掲載しました。
兵庫県など和牛の産地で、
流産や子牛の発育不良の割合が
増加していると
紹介しています。
脂の入りやすい種牛に
人気が偏り、
近親交配が進んだことなどが
要因とみられ、
消費者が赤身肉を好むなど
市場構造も変化する中、
サシ以外の評価軸を増やす動きが
広がっているとのことです。
主婦の方は20年ほど前から
次第に赤身肉を
好むようになってきて、
今ではオーストラリア産などの
草を食べて育った牛の肉が
スーパーなどでは人気です。
もっと前は
匂いや味、固さで
敬遠されていた種類の肉ですが、
消費者の好みが変化しました。
国産の牛肉でも、
古くからある神戸牛や近江牛などの
霜降り肉から、
阿蘇の赤牛や岩手の短角牛などの
赤身肉のブランドに
人気が移っています。
日本での肉類の需要と
生産量を比較すると、
牛・豚・鶏全てにおいて
生産量の2~3倍の需要があり、
輸入に頼らざるを得ない状況です。
豚肉の輸入元は米国、カナダに加えて、
スペインやメキシコなど、
鶏肉の主な輸入元はタイ、
牛肉の輸入元は
米国やオーストラリアです。
牛枝肉の格付けは
得られる肉の割合を示すアルファベットと、
「サシ」「肉の色沢」
「肉の締まり・きめ」
「脂肪の色沢と質」の4項目を
評価する数字とで表されます。
消費者の目線でも
A5等級が良いとされてはいますが、
肉の味の評価ではないことには
留意しておくべきでしょう。
2010年から2021年で
A5格付けを受ける牛枝肉の割合は
3倍以上に増えています。
こうした評価軸の中で、
生産者は
過剰に脂肪が多い霜降りの牛を
育てようとした結果、
病気になる牛が
増加してしまいました。
国産牛肉の輸出先は
カンボジアがトップ、
続いて米国・香港・台湾となっており、
輸出額も
2010年には50億円もなかったものが、
2021年には500億円を超えています。
日本の牛肉が美味しいと
評価されている証ではあると
思いますが、
個人的な好みで言えば
私は霜降りより
赤身の方が好きです。
阿蘇の赤牛は人気ですし、
岩手の短角牛は
入手困難にまでなっている現状を
鑑みると、
国内向けの牛肉としては
評価軸の見直しは
20年遅いと言わざるを得ません。
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▼原子力の失われた10年がようやく動き出した
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三菱重工業が、
電力4社と共同で
新型原子炉を開発することが
わかりました。
加圧水型(PWR)軽水炉をベースに、
核反応を調整する制御棒の駆動方式を
改良するなどして、
出力を機動的に
制御できるようにする方針です。
一方、
日立GEニュークリア・エナジーは
既存の沸騰水型(BWR)軽水炉を
改良し、
電源がなくても
液体の温度差で、
冷却水が対流する仕組みを
開発するとのことです。
安全性の高い新型原子炉のアイデアは
昔からありましたが、
ここ10年の社会的な風潮によって
眠っていた状態でした。
原子力発電所は
廃炉しかないという状況でしたが、
岸田総理が
推進の音頭を取り始めたことで
ようやく動き出すことができました。
日立はこの他に、
高温ガス炉で水素と電気を
同時に作る技術も
持っていますし、
米中で建設が進められている
新型PWRのAP1000は、
かつて東芝傘下だった
ウェスティングハウスの商品です。
もう少し早く
原子力発電の再評価が起こっていれば、
技術的にも経済的にも
日本が後れをとることはなかったと思うと
残念でなりません。
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▼華麗な転身は時流に乗りすぎた感も
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三菱商事が、
米国テキサス州で計画される
燃料用アンモニアの
大規模製造プロジェクトに
参画する検討に入ったとのことです。
アンモニアは燃やしてもCO2が出ず、
石炭と混ぜれば
CO2の排出量を抑えられることから
次世代のエネルギーとして
期待されています。
計画が実現して
2030年代前半に稼働すれば、
年間生産量は
日本が想定する輸入量の3倍に
達するとのことです。
テキサスの南にある
コーパスクリスティという港町で、
年間1,000万トンの生産を目指している
大規模事業です。
三菱商事は
由利本荘での
洋上風力発電事業者に選ばれるなど、
クリーンエネルギー関連で
積極的に先手を打つ姿勢がみられます。
私としては
クリーンエネルギー路線も
頑張ってほしいとは思うのですが、
同社は元々シェルなどと共同で
インドネシアなどで
石油や天然ガスの開発を
進めていた会社です。
そうした従来のエネルギー産業へ
深く関わりながら、
ここまで矢継ぎ早に
クリーンエネルギー事業を
打ち出していくのは、
いささか時流に乗りすぎだという感想を
持ってしまいます。
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▼国家財政圧迫の緩和にも有効性期待
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エーザイは先月28日、
米国のバイオジェンと共同開発する
アルツハイマー病の治療薬である
レカネマブについて、
開発の最終段階の臨床試験で
有効性が確認されたと
発表しました。
レカネマブは
早い段階からの服用が
効果的とされており、
承認へ向け期待が高まっています。
まだ1,800人ほどでしか
臨床試験をしていませんが、
今回初めて
症状の進み方を遅らせることができると
立証されました。
今年中に
欧州、米国でも
承認の申請をするとのことです。
認知症の患者数は
現在世界で5,000万人以上、
2050年には1億2,000万人を超えると
予想されています。
認知症は
本人の健康な生活を損なうだけでなく、
患者のケアに
人手もお金もかかるというのが特徴で、
国家にとっては
莫大なコストがかかる特殊な病気です。
進行を遅らせることで、
ケアを必要としない期間を
延ばすことが重要で、
今回立証された効果だけでも
国家財政にとっては
極めて大きな福音になると
期待されています。
今後、安全性が実証された際には、
一刻も早く服用できるように
してほしいと考えます。