そこが知りたい情報チャンネル

このブログは、自分にとって参考になったことや活用できると思った記事をUPしていきます。

大前研一ニュースの視点

デジタル経済/IT人材/情報システム開発 ~一般企業がIT人材を抱えて、自社のIT力を高めるべき

・デジタル経済 崩れる分配、消えた500億ドル
・IT人材 多重下請け、低賃金の温床
・情報システム開発 名ばかりCIO、場当たりDX

─────────────────────────
▼日本のIT人材は、悲惨な状況に置かれている
─────────────────────────
日経新聞は13日、
「崩れる分配、消えた500億ドル」
と題する記事を掲載しました。

企業が生み出した価値全体から
どのくらい労働者に
還元されているかを示す
労働分配率について、
米国の自動車産業では
1970年代に最大70%を超えた一方、
ITサービスでは2019年度時点で約33%と
全産業の平均より
21ポイント低くなっていると紹介。

 

成長の牽引役が
成長の足を引っ張るジレンマに
陥っている現状とのことです。

かつての米自動車産業に代表される
高い労働分配率は、
労働集約型産業が行き着いた先であり、
組合ができて
労働分配を要求した結果です。

 

一方、IT産業の場合、
利益が莫大になることもあり、
労働分配率は33%に留まる結果も
当然かもしれません。

また、知的産業の場合には、
利益を労働者に分配するとなっても、
労働者の数が
非常に少ないこともあります。

 

極端な話、
労働者が数人程度でも
莫大な利益を上げることも
可能な時代ですから、
そのような意味では
21世紀は不平等な時代になっていると
言えるでしょう。

そんな知的産業の代表である
IT産業における
デジタル人材の待遇について、
日本は大きな課題を抱えています。

 

日経新聞が13日に報じた
「多重下請け、低賃金の温床」
と題する記事では、
デジタル人材の待遇には
日米で大きな開きがあると
紹介されています。

日本の場合、
ユーザー企業のシステム開発を
元請けのシステムインテグレーターが受注した後、
下請け、孫請けに業務を回す構造に
なっているのに対して、
米国の場合、
ユーザー企業は定型サービスを使いながら
効率よくDXを進めるため、
多重下請け構造は
発生しにくいとのことです。

 

これは非常に由々しき問題だと
私は感じています。

日本のIT産業の
労働分配率を見ると、
日本のITエンジニアは
厳しい状況に置かれていることが
分かります。

 

米国の場合、
20代のITエンジニアの平均年収は
1000万円程度で、
30代で平均年収は
1200万円程度まで上がって
ピークを迎えます。

そして、
ITスキルが衰えていく50代になると、
平均年収は1000万円程度にまで
落ち込みます。

 

一方、日本では、
20代のITエンジニアの平均年収は400万円台で、
年功序列式にだんだんと上がり、
50代になると750万前後でピークを迎えます。

もちろん、
日本のITのエンジニアも
50代になれば
ITスキルそのものは落ち込みます。

 

それでも、
過去に培った人脈などを活用して
仕事をこなすことで、
高い給料をもらうという図式が
出来上がっています。

これは日本の悲しい現実だと思います。

ITの本質から考えれば、
米国のように、
ITスキルのピークである30代で
年収もピークに達する方が
理にかなっていると思います。

 

─────────────────────────
▼一般企業がIT人材を抱えて、自社のIT力を高めるべき
─────────────────────────
日経新聞は13日、
「名ばかりCIO、場当たりDX」
と題する記事を掲載しました。

総務省の統計によると、
米英独企業の約3割強が
CIOを設置しているのに対し、
日本企業は1割強にとどまります。

 

さらに、
日本はDXの権限も
エンジニア部隊もいない、
名ばかりCIOが
少なくない現状とのことです。

日本企業のCIOの多くは、
自分自身の役割を
「仕事をITベンダーに丸投げすること」
だと勘違いしていると思います。

 

本来、CIOの役割は、
スタッフと協力して
開発するシステムの
スペックを決めて仕様に落とし込み、
それをベンダーに提示することです。

そして、
提示されたスペックや仕様に応じて
ITベンダーが提案を行い、
最適な提案をしたベンダーが選定される、
というのがあるべき流れです。

 

ところが、日本企業においては、
そもそもシステムのスペックや
仕様を書き出せるCIOが少ないので、
ITベンダーやITコンサルティング会社に
丸投げすることになります。

ITベンダーやITコンサルティング会社が
企業に入り込んで調査し、
一から提案することになります。

 

しかし、このやり方を取ると、
発注した側がスペックや仕様を
理解して落とし込んでいないので、
実際にシステムを稼働させてみたら
不具合が見つかるということが
よくあります。

おまけに、
システム開発を終えて、
使い始めて数年後に
不具合が発覚することがあります。

 

本来、
こうしたタイミングの
システム改修には
費用が発生しますが、
日本企業のCIOの多くは
「予算だけ」は握っており、
責任を追及されるため、
無償で改修するように
ITベンダーに要求します。

 

私もかつて、
ジャスディック・パーク社と合弁して
日本市場に進出した
インドのインフォシス社の
仕事に携わったことがありますが、
発注側の日本企業から
山のように改修要求を受けて
辟易した記憶があります。

結局、
日本企業側に発注能力がないために、
インドの開発会社は
軒並み撤退することになりました。

 

カーネギーメロン大学では、
システムエンジニアのレベルを
明確に定義しています。

日本では、
そのような基準が曖昧で、
国際的には通用しない人材が
溢れかえっています。

 

こうした日本企業における
IT人材の課題は、
人材の所属先にも表れています。

日本ではITベンダーが、
情報処理・通信に携わるIT人材の7割を
確保してしまっています。

そして、確保しているIT人材を
企業に送り込むという形をとっています。

 

一方で、
米国にもITベンダーは
数多くありますが、
ITエンジニアの7割はITベンダーではなく、
一般企業に所属しています。

発注側企業(一般企業)にも
IT人材が多いので
発注能力は高くなりますし、
あるいは外部に開発を委託せず、
自社開発することすら可能になっています。

 

米ゴールドマンサックスなどの
米金融機関では、
IT人材が多数在籍し、
活躍しています。

エムスリーなども同様ですが、
こういった日本企業は
非常に少ないのが現状です。

 

IT人材の大半が
ITベンダーに所属するという
日本企業の現状は、
時代遅れであり大きな問題だと
私は思います。

また、これが
「ITエンジニア哀史」とも言える、
世界と比べて
日本のITエンジニアの平均年収が
ITスキルが最も高まる
20代~30代において
著しく低いという、
悲しい現状を作り出している要因だと
私は思います。

 

 

-大前研一ニュースの視点