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大前研一ニュースの視点

完全失業率・金融政策 ~いい加減、金利やマネーサプライで景気刺激ができるという認識を改めよ

2019/01/29

完全失業率 雇用加熱、さえぬ消費
金融政策 金融緩和では止められない成長力の低下

アベノミクスは、前提としている経済認識がすべて間違っている

日経新聞は先月30日、「雇用加熱、さえぬ消費」と題する記事を掲載しました。

総務省が発表した7月の完全失業率は3.0%と前月から0.1ポイント下がり、
21年2カ月ぶりの低水準となりました。

それでも7月の実質消費支出は前年同月より0.5%減少しており、
雇用増がパートなど非正規労働や低賃金の仕事に偏り、
家計の財布の紐が緩まず、消費に結びつかない現状としています。

日本のように完全雇用に近い状況で、
お金をばら撒いて景気刺激をするという経済理論は世界中を見渡しても例がありません。

そんなことをしても、インフレになるだけで効果はないからです。

日本の場合には、低欲望社会で高齢者がお金を溜め込んでいるため、
インフレにすらなりません。

アベノミクスで28兆円ものお金をばら撒いて、
景気刺激を試みている理由が私には理解できません。

失業率は下がり続け、有効求人倍率は上がっています。

日本は雇用に対してはタイトな状況だと言えるでしょう。

パートやフルタイム以外で働く人が増え、これがクッションになっていますが、
この点は世界中どこの国でも同じです。

そのような状況で、実質消費支出は対前年比で下がり続け、
消費物価指数も下がっています。

日本経済の特徴は、どこが悪いというわけではないものの上がっていかない、
ということです。

これは、安倍首相が考えているような「金利」「マネーサプライ」ではないところに、
景気が上向かない本当の理由があるからです。

日本には1,700兆円の個人金融資産が眠っています。

しかし、将来への不安からこのお金がマーケットに出てきません。

給料を上げても、不安のほうが勝ってしまうのです。

日本の経済政策として第1に考えるべきなのは、
この1,700兆円のお金が出てくるようにすることであり、
「賃上げ」でも「非正規雇用の正規化」でもありません。

アベノミクスの前提になっている経済の認識はすべて間違っているのです。

安倍首相の周囲にいる人の中に1人でも理解できる人がいれば、と思います。

また彼らの多くは「株価が上がれば景気がいい」と思い込んでいますが、
これもとんでもない認識間違いです。

例えば、社員をどんどん解雇して企業収益を上げれば株価はあがりますが、
それで景気は良いことになるでしょうか?

株価と景気は関係ありません。

安倍首相を含め、絶望的に現状認識が間違っていると思います。

いい加減、金利やマネーサプライで景気刺激ができるという認識を改めよ

そして、残念なことにこの認識間違いをしている人は日本だけではありません。

世界の中央銀行首脳らが集まる国際経済シンポジウムで、
低成長・低インフレで苦戦する中銀の政策限界論をめぐり、
激論が交わされたと紹介。

経済の勢いが構造的に弱まっている時には、
金融政策が効果を発揮しにくいことが浮かび上がったとし、
各国政府はこうした金融政策依存に陥らないよう潜在的な成長力を
引き上げる方策に全力をあげるべきとしています。

私に言わせれば、私の本を一冊でも読んでくれれば話は終わるはずです。

昔の経済理論のままで、「どうもうまくいかない」と悩んでいる人たちばかりです。

金融緩和では成長力の低下を止められない、とのことですが当たり前です。

成長力というのは、人が増えている、人が育っているといったことを意味するはずです。

将来に対して期待が持てて、この国は良くなっていくと思えば、
放っておいても勝手に設備投資をするものです。

かつての日本で言えば、金利が5%でもお金を借りて設備投資をしていました。

逆に、そういう期待感がなければゼロ金利であっても投資はしないのです。

潜在成長力を引き上げようとスローガンを掲げても、
日本のような国では投資する理由にはなりません。

30歳でも将来に不安を感じて貯金をし、60歳でも不安で、
80歳になってもいざというときのために貯金をしている国民です。

大仰なスローガンを掲げるよりも、政府が老後の面倒はすべて見るから心配ない、
と言えればそれだけで解決します。

日本の経済学者も、そして米国からやってきたクルーグマン氏でさえ、
この現実が見えていません。

日本の現実にとって重要なのは、マクロ経済ではなくミクロ経済です。

個々人の財布がどうなっているのかを見て感じられなければ、
一向に問題は解決しないと思います。



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