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大前研一ニュースの視点

岸田首相/税制改正 ~国民の貯蓄を市場に引っ張り出す施策とは

・岸田首相 新しい資本主義の実現を強調
・税制改正 金融所得の税率上げ議論

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▼新しい資本主義という言葉遊びではなく、具体的な政策を打ち出すべき
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岸田首相は8日、衆院本会議で
所信表明演説を行いました。

演説の中で
信頼と共感を得られる政治が必要とし、
国民との丁寧な対話と説明に
注力する考えを強調。

経済対策では、
中間層を守る新たな資本主義の実現へ向けて
成長と分配を車の両輪にする考えを
示しました。

岸田首相の話し方は上手だと感じましたが、
話の内容については
全く具体性がなく非常に残念でした。

「新しい資本主義」と発言していましたが、
具体的にどのようなことを意味しているのか
全くわかりません。

そもそも、
既存の資本主義を
岸田首相がどう捉えているのかという点も
不明ですし、
それがあったとしても
「新しい資本主義」を
考え出すというのであれば、
経済学者でも難しいことです。

安易に「新しい資本主義」という言葉を
使いすぎだと感じました。

また、
「成長」と「分配」という言葉も
キーワードとして使っていましたが、
この点についても具体性がなく、
これらを両輪とするのは
当たり前の話です。

それらを前提として、
日本のように
成長が止まってしまっている国で
どのように成長させるのか、
あるいは、
高度福祉社会的な分配をしてきた日本が
これから何を原資として、
どのように分配していくのかといった点を
話してくれなければ意味がないと
私は思います。

そのためには
今なぜ日本が成長できていないのかを
考えるべきでしょう。

私はかねてから提唱しているように、
原因は「低欲望社会」にあると
思っています。

低欲望社会の日本においては、
20世紀の古い経済対策は
効果がありません。

低欲望社会が進み、
貯蓄だけが増えて
お金が市場に出てこない日本においては、
その貯蓄をどのようにして
市場に引っ張り出すかということが
最重要課題です。

その1つの解決策として、
私は金融資本にも課税するという案を
提唱してきました。

たとえば、
金融資産に対して1%課税するだけでも
数十兆円規模の財源を確保することが
できるはずです。

それだけの財源があれば、
新しい分野に分配していくことも
できるでしょう。

岸田首相には
誰か経済アドバイザーが
いるのかもしれませんが、
結局のところ
言葉遊びをしているだけだと感じます。

安倍元首相は
浜田宏一氏やクルーグマン氏を
経済指南役として
「アベクロ」経済対策を実施しましたが、
金利を下げて
市場をお金でジャブジャブにしても
何ら効果はありませんでした。

岸田首相には同じ轍を踏まないように、
効果的かつ具体的な方針を
打ち出して欲しいと思います。

 

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▼国民の貯蓄を市場に引っ張り出す具体的な施策とは?
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日経新聞は7日、
「金融所得の税率上げ議論」
と題する記事を掲載しました。

現在20%の金融所得課税について
政府が一律で引き上げる案や、
高所得者の負担が重くなるように
累進的に課税する案を検討すると紹介。

しかし、日本は欧米に比べて、
家計が保有する金融資産のうち
株式や投資信託は少ないほか、
政府が進めている「貯蓄から投資」にも
水を差しかねないとしています。

その後、
当面の間実行の予定はないと
発言していましたが、
そもそも効果がある施策なのか
私には疑問です。

おそらく配当金や金利に対して
課税するということになるのでしょうが、
そもそも日本の金利は低すぎるので
税率を上げたところで
ほとんど効果はないでしょう。

それよりも、上述したように、
保有する金融資産に対して
一律で課税する方法のほうが効果的です。

家計の金融資産構成を見ると、
日本人の金融資産のほとんどが
現金・預金です。

この金融資産に対して
課税率1~1.5%でも
数十兆円の財源を見込めますし、
極端な話として、
5%にすれば
一気に100兆円規模の財源を
確保することができます。

もちろん5%の課税率では
他に問題が起こるので
現実的とは言えませんが、
理論的にはこのように考えるべきだと
思います。

そして、
金融資産に加えて固定資産に対しても
同様の課税をすれば、
さらに財源を確保できます。

他にも、
貯蓄に回りがちなお金を
引っ張り出す方法は考えられます。

例えば、
日本人の家に対する意識を
変えるというのも1つの策です。

米国の例を見るとよくわかります。

米国人は日本人に比べて
「家に対する願望」が
非常に強い国民です。

米国では株を持っている人が多く、
株式市場が上向くと
景気が良くなるという傾向がありますが、
そのようなとき、
米国人は株を抵当に入れて
家を購入します。

生活する家以外に、
南部の暖かい地域に
2~3軒の家を保有する人も多くいます。

この南部に購入した家は、
老後になって用途がなくなったら
売却してしまいます。

米国は貯蓄性向が低いと言われますが、
実は最終的にこういった家を売ることで
現金を手にすることができます。

つまり、
家が貯蓄代わりになっていると言えます。

一方、日本では
「狭いながらも楽しい我が家」「終の棲家」
という価値観が一般的に広まっていて、
生活する以外の家を購入する人は
ごく一部です。

その結果、お金は使われることなく、
何十年も貯蓄されているだけで
終わってしまいます。

欧米では貧富の二極化が進んでいます。

日本では、
欧米ほど大きな貧富の差が
生まれていないのは良いことですが、
逆に言えば「金持ちになりたい」
という欲望が少ないということであり、
社会的な大きな課題の1つだと思います。

日本はこの30年間
全く給料が上がっていないのに、
社会が安定しています。

国の為政者としては
極めて治めやすい国と
言えるかもしれませんが、
このままで良いのか
考えるべきでしょう。

 

 

 

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