そこが知りたい情報チャンネル

このブログは、自分にとって参考になったことや活用できると思った記事をUPしていきます。

大前研一ニュースの視点

ヘルムート・コール氏/イギリス総選挙 ~メイ首相は、自分の認識間違いに気づき、やり直せ

2019/01/29

・訃報 ヘルムート・コール氏が死去
・イギリス総選挙 与党・保守党が過半数割れ

─────────────────────────
▼東西ドイツ統一の立役者・コール元首相は、偉大な政治家・政策家だった
─────────────────────────

ヘルムート・コール元ドイツ首相が16日、死去しました。87歳でした。

コール氏は、1982年の内閣不信任案でシュミット政権を倒し、首相に就任。

89年にベルリンの壁が崩壊すると外交交渉に奔走し、90年東西ドイツを統一。

また、首相在任中に欧州連合(EU)の基礎となるマーストリヒト条約に調印し、
名実ともに「欧州のなかのドイツ」を実現しました。

コール氏は10代の頃から首相を夢見た人物で、16年間首相を務めました。

コール氏の最大の貢献は、東西ドイツ統一にあたっての
「処置」が素晴らしかったことだと私は思っています。

東ドイツとの統一について明確なイメージを持っていました。

まずドイツが統一されて、かつての「強いドイツ」が
復活することに懸念を覚えるであろうロシアとフランスへの対処です。

そのために、フランスのミッテラン大統領、
ロシアのゴルバチョフ書記長と親密な関係性を築き上げました。

そして東西ドイツの統一に際して、
東ドイツ崩壊後は「一気に」統一を押し進めました。

当時、私は東ドイツにも足を運んでいたので実感していますが、
西と東の生活レベルの差は「20対1」ほどあったと思います。

コール氏は、一定額以上の貯金は強制的に東西の紙幣価値を
「2対1」(例外もあり)にすることで、
一気に東ドイツの生活レベルを上昇させて統一を果たしました。

また、旧東独諸州支援のために、連帯付加税を導入しました。

おそらく普通の国なら、このような税金を課されたら大騒ぎになったと思いますが、
コール氏のリーダーシップにより実現し、西ドイツの人たちは我慢したのです。

ドイツの統一を進めつつ、欧州への配慮も忘れませんでした。

ドイツが強くなりすぎると良くないので、
マーストリヒト条約の発効とEU実現に動きます。

そして、共通通貨ユーロ導入にもつながっていきました。

単に政治理論におわるのではなく、実際にこれらの政策を粛々と実現していきました。

最終的に、東ドイツの復興が十分ではない、
という理由で選挙に敗北することになりましたが、
そのとき後継者としてメルケル氏を抜擢したのも慧眼でした。

西側から後継者を選んでいたら、今のドイツにはなっていなかったと思います。

東側の惨めな状況を肌で知っているメルケル氏はまさに適任でした。

ドイツには、アデナウアー氏、シュミット氏など
優れた政治家がたくさんいましたが、あの瞬間において、
あの状況の中で、世界・欧州が必要としていた人物として、
コール氏はパーフェクトな人物だったと思います。

政治と政策をマッチングさせた手腕は見事としか言いようがなく、
日本の政治家も少しでも見習ってもらいたいところです。

─────────────────────────
▼メイ首相は、自分の認識間違いに気づき、やり直せ
─────────────────────────

英国議会下院選挙の投票が8日行われ、開票の結果、
メイ首相率いる与党・保守党は318議席を獲得し第1党の座を守ったものの、
解散前から12議席減らし過半数割れとなりました。

メイ首相は少数政党の協力を得て続投を目指す考えを示しましたが、
政権運営は難しさを増し、EU離脱交渉にも影を落とすことになっています。

メイ首相は、発言と行動がバラバラで、
率直に言えば必要が無いことをやって自滅していると思います。

メイ首相の主張は、自分たちだけ「良いとこ取り」をしていて、
欧州の大陸側には全く受け入れてもらえていません。

私に言わせれば、そうとう考えているポイントがズレています。

そのような中でも、メイ首相は「選挙に大勝すれば交渉が有利に運べる」
ということでしたが、それすらできませんでした。

そもそも欧州側は「選挙に勝っても関係ない」と言っていたので、
誰も信じていなかったでしょう。

最近では、メイ首相は議会全体で十分に議論せずに、
側近のアドバイザー2人と密室政治を行っている、
ということも国民に露見し、さらに立場が危うくなってきています。

318議席では過半数に足らないので、
連立を組める相手を探すことになるでしょう。

労働党はもちろんのこと、スコットランド国民党とは組めないでしょう。

そうなると、次は10議席を獲得した
北アイルランドの民主統一党を狙う可能性が高いと思います。

しかし、北アイルランドの民主統一党とメイ首相では
主義主張の相違も少なくなく、これは単なる数合わせに過ぎません。

メイ首相が言うようにブレキシットを実現すれば、
北アイルランドとの間に境界ができてしまいます。

100万人近い人が通勤に利用しているというのに、
境界ができたら大変な事態になってしまうでしょう。

両者が組んだところで、北アイルランドが不安定になるだけで、
まともに連立政権が機能することはありません。

メイ首相は、今回の選挙の結果も踏まえて、
自分の認識間違いに気づくべきです。

客観的に見て、メイ首相がいう「ハード・ブレキシット」は
まず実現不可能です。

もし、EUから離脱するにしても、移民問題だけは条件付きで認めてもらいつつ、
他の貿易などの条件は現状のままでなければ、交渉が成立することはないと思います。

結果としては、ブレキシットではなく、
移民の問題だけを再交渉という形に落ち着けるのが
実現可能なラインでしょう。

それにしても、すでにリスボン条約に基いて離脱の意思表示をしてしまっているので、
何もなければ2年後に自動的に抜けなくてはいけません。

この点においても、メイ首相は自分の選択を反省すべきだと思います。

そもそも移民問題を取り上げていますが、
これもメイ首相の認識間違いです。

欧州の若者の失業率を見ると、スペインやイタリアは
20%近くの高い水準にありますが、英国はドイツに次いで低く10%未満です。

「移民が仕事を奪ったために失業率が高くなっている、ゆえにブレキシットが必要だ」
というのは政治のレトリックであり、正しい認識ではありません。

メイ首相は数々の自分の認識間違いに気づき、それを認め、
その上で再度選挙をやり直すべきだと私は思います。

それくらいやらなければ、すっきりしませんし、
まともに政権を維持していくことは難しいと思います。

-大前研一ニュースの視点
-, , ,