BRICS/ブラジル・ルラ大統領/中印関係/ウクライナ情勢/米イーロン・マスク氏/インドネシア情勢
▼BRICS 首脳会議を開催
仲間を増やしただけで、意味を持つ会議とはならず
ロシア西部カザンで、22日から3日間、BRICS首脳会議が開かれました。
BRICSは加盟国が拡大し、新たにエジプト、
イランなどが参加してから初の首脳会議となりますが、
冒頭、ロシアのプーチン大統領は「多極化が進む中、
BRICSは世界の安定と安全保障分野にプラスの影響を与えている」と強調、
また23日に採択したカザン宣言では、
西側諸国による制裁の悪影響に懸念を示したほか、
BRICSとの関係強化を目指すパートナー国の創設などを盛り込みました。
しかし、この会議は実際のところ、
それほど大きな意味を持たないと考えられます。
BRICSはもともとゴールドマン・サックスが「21世紀に有望な国々」として、
ブラジル、ロシア、インド、中国の「BRIC」として名付けたもので、
当初は南アフリカ(S)は含まれていませんでした。
その後、南アフリカが加わりBRICSとなりましたが、
今回の首脳会議はロシアが主催し、
他の国々を仲間に加えようという意図が感じられます。
会議の開催地であるカザンは、ロシア西部に位置し、
かつてイスラム王朝カザン・ハン国の首都でした。
ロシア正教とイスラム教が共存し、
クレムリン(城塞)で知られるこの歴史的な都市は、
1552年にイヴァン大帝の侵攻を受けましたが、
現在でもイスラム建築が多く残っています。
BRICSの正式な加盟国は、ブラジル、ロシア、インド、中国、
南アフリカ、UAE、イラン、エジプト、エチオピアです。
一方、パートナー国は、アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、
キューバ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、ナイジェリア、
タイ、トルコ、ウガンダ、ウズベキスタン、ベトナムといった国々ですが、
正規メンバーではありません。
ちなみにパートナー国であるベトナム、タイ、マレーシア、
インドネシアは、ASEAN諸国の有力国です。
しかし、これらの国々が本当に強固なパートナーシップを
築けるかについては疑問が残ります。
BRICSは、NATOのように一国が攻撃された際に全体で防衛するような
軍事的な同盟ではなく、またASEANやEUのように経済的な連携を強化し、
関税撤廃を目指すような組織でもありません。
BRICSは、
アメリカに対抗するロシアと中国が一時的に結束しているようなもので、
インドはどちらかというと「自分は知らないよ」という立場を取り、
都合のいい国々とは柔軟に関係を築く姿勢のようです。
ベラルーシはロシアと「刎頸之友(ふんけいのとも)」と言えるほどの
非常に密接な関係にありますが、まだBRICSの正式メンバーにはなっていません。
このように、BRICSは緩やかな連携を持つグループであり、
今回の会議でも少しの進展が見られたものの、
あまり大きな意味を持つとは言い難いと言えるでしょう。
▼ブラジル・ルラ大統領 BRICS首脳会議出席のロシア訪問を中止
仮病により、関係悪化をうまく回避できたか
ブラジルのルラ大統領は19日、
BRICS首脳会議に出席するためのロシア訪問を中止すると発表しました。
ルラ氏はトイレで転倒し、後頭部に切り傷を負ったということで、
病院での治療を終え、症状は深刻ではないものの、
飛行機での長距離移動を避けるよう医師から助言を受けたということです。
しかし、これは仮病ではないかと私は思います。
ルラ大統領は対米関係に配慮して、
このタイミングでロシアや中国と親しい関係だと見られたくはないのでしょう。
転倒自体は事実かもしれませんが、
飛行機での移動ができないほどの大けがではないと思います。
ブラジル国内では多くの移動が飛行機で行われ、
出席しなければならない議会はブラジリアで行われます。
それ故に、今回のロシア訪問中止は、
アメリカとの関係を悪化させたくないための仮病であると考えています。
▼中印関係 習主席、モディ首相が首脳会談
話し合いのための「話し合い」でわずかに改善するも、根本的解決には至らず
中国・習近平国家主席とインドのモディ首相は23日、
訪問先のロシアで首脳会談を行いました。
両首脳の会談は2020年にインド北部の国境地帯で
双方の軍が衝突して以来5年ぶりで、会談で習氏は意思疎通と協力を強化し、
互いの発展を実現すべきと述べたのに対し、
モディ氏は二国間関係の改善と発展に向けたアイデアを提示し、
習氏も原則同意したということです。
これは先ほどお話しした「少しの親展が見られた」部分のことで、
習近平氏とモディ氏はこのままでは両国関係が厳しくなることを懸念し、
長年の課題である中印国境問題を今回の会談で取り上げました。
実は、中国とインドの国境線は明確に引かれておらず、
全長3500キロに及ぶこの中印国境は、
日本で言えば北海道から沖縄までの距離に相当します。
大部分がエベレストを含むヒマラヤ山脈に位置し、
歴史的にはこの地域は緩衝地帯とされてきました。
しかし、中国がチベットを併合したことで、
国境の線引きがあいまいなままになり、何度も衝突が発生してきました。
1962年には大規模な武力衝突があり、
2020年にも再び両国軍が衝突して、インド側では20名の犠牲者が出ました。
両国が実効支配線について合意しさえすれば、
問題はすぐにでも解決するのですが、
今回は「話し合いを続けることが重要だ」という
「話し合い」をしたに過ぎません。
結果として、両国が武力衝突を避け、
対話による解決を模索する方向性では一致したものの、
根本的な問題解決には、まだ道のりが長いと言えるでしょう。
▼ウクライナ情勢 北朝鮮軍がクルスク州到着
北朝鮮の動きが、国際社会を揺るがす事態に?
ウクライナ国防省は24日、
ロシア極東で訓練を受けた北朝鮮軍の最初の部隊が、
西部クルスク州の戦闘地域に到着したと発表しました。
部隊の規模は明らかにしていませんが、
派遣された北朝鮮軍は3人の司令官や500人の将校を含む、
およそ1万2000人に上るとしています。
欧米メディアやウクライナ側では、北朝鮮軍のクルスク到着を受け、
ウクライナはこの状況を「格好の餌食だ」としています。
一方で、北朝鮮軍は非常に訓練の行き届いた精鋭部隊だと言われています。
しかし、いかに最強の部隊であっても、
武器を前にすれば人間であることに変わりはありません。
今後、北朝鮮軍がどのような役割を果たすかは注視すべきですが、
ロシアは兵力不足に直面しており、
特にクルスク州など自国内でウクライナに占拠されている地域では
対応が難航しています。
このため、ロシアは北朝鮮に依存する形となっており、
この事態はロシアがいかに厳しい状況にあるかを示しています。
さらに北朝鮮とロシアの関係は、
ウクライナ戦争の中で新たな局面を迎えています。
これまで北朝鮮は武器や弾薬を提供してきましたが、
兵士派遣により北朝鮮が戦争当事国となります。
NATOにとっても、ロシアに対抗してウクライナを支援する中、
北朝鮮が戦争当事国となれば状況を大きく変える可能性があります。
北朝鮮は極東に位置しており、
この動きは極東地域の情勢にも大きな影響を与えると考えられ、
日本にもその影響が及ぶでしょう。
韓国ではこの動きが詳細に報告されており、
今後の展開次第では韓国もウクライナへの支援を
検討せざるを得ない状況になるかもしれません。
また仏マクロン大統領も、
場合によってはウクライナに派兵する必要があると発言しており、
以前はその発言に対して批判もありましたが、北朝鮮の動きを受け、
NATO加盟国の中でもウクライナへの派兵が議論され始めています。
このように、北朝鮮の動きは国際社会に大きな影響を与えており、
逆に言えば、プーチン大統領がそれほどまでに追い詰められている状況を
反映していると言えます。
▼米イーロン・マスク氏 ロシア・プーチン大統領と定期的に連絡
問題人物の行動は、国家の安全保障にまで及ぶか
ウォール・ストリート・ジャーナルは24日、米イーロン・マスク氏が、
2022年からロシアのプーチン大統領と定期的に連絡を取っていると報じました。
個人的な問題やウクライナ侵攻、
台湾情勢に関する意見交換などが行われたと見られ、
NASAのネルソン長官は25日「事実であればNASAや国防総省、
アメリカ情報機関にとって懸念すべき事態」と指摘しました。
イーロン・マスク氏のスペースXは、
NASAの宇宙開発において欠かせない存在であり、
NASAがスペースXに大きく依存していると言っても過言ではありません。
もしマスク氏がロシアと密接な関係を持っているとすれば、
アメリカの政治や国防に大きな影響を及ぼすかもしれません。
マスク氏は、
プーチン大統領とのやり取りを自慢するつもりで行っていたのかもしれませんが、
トランプ氏も同様に、最近プーチン大統領と連絡を取り合っているとされています。
アメリカの国防的な観点から見ると、
プーチン大統領と個人的にメールや電話で話し合っているとなれば、
トランプ氏やマスク氏は要注意人物として扱われ、
場合によっては国防機密違反に問われる可能性も考えられます。
こうした事態は、アメリカの安全保障に関わる非常に深刻な問題です。
▼インドネシア情勢 プラボヴォ前国防相が大統領就任
全ての国との平等外交は、国に伝わる「ことわざ」による
2月のインドネシア大統領選で勝利したプラボウォ前国防大臣が20日、
正式に大統領に就任しました。
新政権は外資の呼び込みや地方のインフラ整備など、
ジョコ前政権の主要政策を引き継ぐ方針ですが、
高校までの給食無償化や国防予算拡大など独自色も打ち出すと見られます。
プラボウォ氏はもともと軍人であり、
前回の選挙ではジョコ氏に敗北したものの、
その後、ジョコ内閣で国防大臣を務めました。
今回、ジョコ氏との関係を維持するために、
ジョコ氏の長男であるギブラン氏を副大統領に指名しました。
このような状況から、インドネシア国内では
「利害が絡み合った関係ではないか」と見る声もあります。
またギブラン氏は出馬時36歳であり、
憲法上は正副大統領の要件として40歳以上である必要がありますが、
彼がソロ市長を経験していることを理由に憲法裁判所は特例を認め、
副大統領となりました。
このような憲法の柔軟な解釈に対して、
「憲法が都合よく解釈されている」との批判も見られます。
プラボウォ氏は、相当なたたき上げの軍人であり、
ジョコ前大統領のように柔和な政治スタイルを取るかどうかはまだ不明です。
しかし彼は「友人は何人いてもいいが、敵は1人でも多すぎる」
というインドネシアのことわざを引用し、アメリカであれ、
ロシアであれ、どの国とも友好関係を築く方針を示しました。
また「敵と見なす国は存在しない」と強調し、特定の国に偏らず、
全ての国と平等に外交を進める独自の路線を示しています。
私自身、このことわざを初めて耳にし、
「なかなか、いいことを言うな」と感じました。
この発言から考えると、
インドネシアを特定の陣営に引き込もうとすることは難しいだろうと
理解できます。
つまり、
アメリカや日本がインドネシアを自分たちの側に引き込もうとしても、
インドネシアはあらゆる国と友好関係を築こうとする立場を貫くということです。
したがって、たとえインドネシアがロシアと友好関係を深めたとしても、
日本がそれを批判するのは難しいという状況になるわけです。
このような外交方針は、スカルノ政権時代にインドネシアが第三国として、
米ソどちらの陣営にも属さない中立的な立場を取っていたことをほうふつとさせます。
インドネシアに伝わることわざ、言い伝えが、
こうした中立的な姿勢を支えているのだと、私は改めて感じました。