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大前研一ニュースの視点

インド太平洋情勢/クアッド ~バイデン大統領の焦りが招いた外交失策

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・インド太平洋情勢 「AUKUS」(オーカス)を構築
・クアッド 日米豪印が対面で首脳会合

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▼バイデン大統領の焦りが招いた外交失策
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米国、英国、豪州の3カ国は
新たな安全保障の枠組み
「AUKUS」(オーカス)を
構築すると発表しました。

3カ国による高官協議を立ち上げるとともに、
米国と英国が
豪州の原子力潜水艦配備を
支援するものですが、
豪州政府は2016年に
仏政府系造船会社ナバルグループを
潜水艦の共同開発企業に指名しており、
事業を撤回されたフランス側は
強い不満を表明しました。

AUKUSはAUで豪州、UKで英国、
USで米国を意味する3国関係ですが、
やや複雑な様相を呈しています。

その1つの理由が、
この3カ国にカナダとニュージーランドを加えた
「エシュロン」という
通信傍受システムの枠組みが
既にあることです。
(ただし米国はエシュロンについて
公式に存在を認めていません)

こうした関係性から見ると、
今回の3カ国による枠組みは
不思議だと感じます。

オーストラリアは2016年に、
次期潜水艦事業の共同開発企業として
ナバルの前身であるDCNSを
選定しています。

しかし、ナバル選定後、
保証期間などを巡る交渉が難航するなど、
オーストラリアからの要望に応えられず、
プロジェクトは順調ではありませんでした。

同事業を巡っては
日本も受注を目指していましたが、
失注したという経緯があります。

日本の潜水艦製造技術は優れているので、
もし日本が受注していれば
上手く行ったのではないかと
私は見ています。

そんなオーストラリアの状況を受けて、
米国が原子力潜水艦の配備支援に
手を挙げたという形になります。

その上でオーストラリアには
中国へ対抗する立場として
頑張ってもらいたいという意向でしょう。

原子力潜水艦のノウハウは
英国と米国など
限られた国しか
持っていないものですから、
これをオーストラリアに
提供するというのは、
非常に重要なことです。

それゆえ、
エシュロンのメンバーでもある
ニュージーランドは
不快感を示しています。

アーダーン首相が
モリソン豪州首相に対し、
ニュージーランドの領海内への
原潜の進入は容認できないと
伝えたと言われています。

また、
米国の介入で当初の見込みよりも
費用が膨らみ、
7兆円に膨張した取引を失った
仏政府も怒り心頭で、
仏マクロン大統領は
駐米・駐豪大使を召還する
強い報復に出ました。

結局、
バイデン大統領が謝罪をしたことで、
マクロン大統領は
召還した駐米大使を
復帰させることを
決めたそうですが、
私に言わせれば
まるで子供の喧嘩です。

このような状況に
陥ってしまったのは、
バイデン大統領が
事前の根回しなどをせずに
性急に事を進めてしまったためです。

アフガニスタンからの撤収で
世間から批判を浴びている中で、
焦って何かやらなければと
思ったのでしょう。

外交で失敗続きの
バイデン大統領ですが、
また1つ外交政策の失敗が
増えてしまいました。

なお、今回の件で
オーストラリアが
核武装することになるのではないかと
思う人もいるかも知れませんが、
そうではありません。

英国と米国が保有する
原子力潜水艦は2種類あります。

オーストラリアが契約するのは、
原子力を動力源としますが
核弾頭ミサイルを
搭載していないものです。

 

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▼経済的に中国を排除するのは非現実的だ
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日本、米国、豪州、インドの首脳会合が
先月25日、
米国の首都ワシントンで行われました。

4カ国が対面で集うのは初めてで、
会合では
「自由で開かれたインド太平洋」の
実現に向けた連携を
強化するとともに、
新型コロナ対策などの課題で
協力を拡大する方針で一致しました。

ここでもバイデン大統領の焦りが
見てとれます。

4カ国を急遽対面で呼びつけて
多くのことに合意しましたが、
中国に対して
「自由で開かれたインド太平洋」
というのは現実的とは思えません。

まるでトランプ前大統領の
後遺症を患ったのかのように、
バイデン大統領は十分な準備をせずに、
とにかく「中国と対立する」という方針を
受け継いでしまったという印象です。

日本、米国、オーストラリア、インドにとって
貿易相手としての中国は極めて重要であり、
簡単に排除できるものではありません。

各国の輸出入における
対中輸出・対中輸入の順位を見ると、
その依存度の高さがわかります。

中国は非常に重要な取引相手国であり、
強がりを言ってみても
難しいことがわかるでしょう。

サプライチェーンについても
議論が交わされたようですが、
この分野こそ
中国抜きで考えることは不可能であり、
サプライチェーンの中身も
よく理解していないのでしょう。

例えば、
台湾を応援するという姿勢を
見せていますが、
台湾企業は
中国内でサプライチェーンを
担っていますから、
矛盾しています。

政治家が経済の流れや
サプライチェーンの中身も
理解しないまま、
中国を抜きにして
話を進めようとしても
無理があります。

日本はかろうじて
4カ国の中では素材に関して
中国依存度が低くなっていますが、
最終的に商品や製品の完成まで考えれば、
いずれの国も中国抜きでは
考えられないはずです。

特に米国は中国を排除したら、
製造業マーケットそのものが
崩壊するでしょう。

例えば米国のスーパーマーケットで
売っているものを見れば、
中国を経由したものが多く並んでいます。

こうした現状を踏まえて
どこまで中国と対立しようとしているのか、
私には全く理解できません。

中国の政府に
問題があることは承知していますが、
それは別次元の問題です。

中国を経済的な観点から
隔離することは可能なのか、
今一度考えてほしいと思います。

世界の国々は相互依存の中で、
お互いに得意なものを
融通しあっています。

これがグローバル経済の本質であり、
不用意に「中国外し」を
合意したとしても全く意味はなく、
百害あって一利無しだと私は思います。

経済について素人の政治家が集まって
議論をしていても、
結局この程度です。

バイデン大統領が
どうしても中国との対立構造を
貫きたいというのであれば、
何かしらテーマを絞るべきです。

例えば、
「新疆ウイグル自治区の問題」
あるいは「香港の問題」などです。

トランプ前大統領のように
「とにかく中国と対立」するのではなく、
経済は中国ありきで
成り立っていることを自覚して、
バランスをとった政策を
打ち出してほしいと思います。

 

 

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