中央銀行の信用 (2)「サプライズの日銀」と「ノーサプライズのFRB」
2019/01/28
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経営テクニックのひとつに、「ノーサプライズ」という言葉があります。
良いことも悪いこともまずは経営者に知らせるように徹底させて、
とにかく「隠すな」「驚かすな」ということです。
「誰のせいだ」などと責任を問うことにこだわらず、
まずは問題解決にあたれという意味です。
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たとえ悪いニュースでも、早い段階で気付けば食い止めることができます。
時間をかけて別の戦略を練ることもできます。
そして経営者は悪いニュースでも従業員や株主に知らせます。
これによって経営は安定し、健全さが保たれるのです。
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しかしこれは「言うは易し、行うは難し」です。
日本的な会社であればまず犯人捜しが行われ、誰かが責任を負わされるでしょう。
前任者がやったことや、不可抗力の場合でもこの「魔女狩り」は行われます。
たとえ問題を見つけても、それを報告すれば自分の責任にされそうなので
みな知らんふりして過ごします。
「臭いものに蓋」をしているうちに問題はどんどん大きくなります。
不祥事を誰かに嗅ぎつかれて脅されたり、
隠蔽するためのスキームに巨額のカネを払ったりします。
隠し切れなくなった時には、すでに手遅れになっていることが多いのです。
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「ノーサプライズ経営」を実行するには、まず経営者がフェアでなくてはなりません。
問題を指摘する人や反対者を煙たがるのではなく、
意見に耳を傾けて判断しなくてはなりません。
誰かを罰したり罪を押し付けて終わらせるのではなく、
問題解決が最優先するのだという姿勢を見せなくてはなりません。
そのためには、責任がある人をあえて罰しないことだってあるのです。
まず経営者が一貫した態度を示し、従業員や株主などの信頼を勝ち取ることで
可能になるのが「ノーサプライズ経営」です。
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さて、米国FRB(連邦準備委員会)はノーサプライズ経営です。
利上げや利下げのタイミングは、経済指標やコメントを見ると予想がつきます。
さらに何か月も前からシグナルを送って来るので、
実際に政策が発表されても驚くことはありません。
そこまでの過程で市場が混乱することで、材料を完全に消化してしまうからです。
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一方、今の日銀はサプライズ経営です。
経済指標やコメントを見ても、政策は予想できません。
直前まで否定していた政策をいきなり実行するので、
発表されてから驚いてすったもんだすることになります。
市場は疑心暗鬼となり、日銀会合のたびに荒れた動きをします。
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この差はとんでもなく大きいです。
「先進国」と「そうでない国」というだけでは埋められない信用の差があるのです。
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では中央銀行が信頼を失うことで、どんなダメージがあるのでしょうか。
難しい言葉では「中央銀行の信認低下」などと言われますが、
少し具体的に考えてみましょう。
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まずは単純に「ボラティリティ増加による資産価値低下」があります。
ファイナンス理論の世界では、値動きが激しい資産ほど高い期待収益率を要求されます。
同じ収益率なら、値動きが激しい資産ほどディスカウント(値引き)されるということです。
他市場との相関係数が絡むので一概には言えませんが、
日本株のほうが予測が難しく荒い動きをするなら配分を減らされるのが自然です。
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第二に、市場操作されやすくなることです。
日本株は根も葉もない噂を流して、大きく動かすことが可能です。
デマを流しても誰も否定できないので、最近はマスメディアを使って
操作しようとする人が増えたように思います。
日銀が市場と対話せず、サプライズばかり狙うからそうなってしまったのです。
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第三に、口先介入の効果が薄れることです。
たとえば消費税引き上げ決定や選挙前に円高が進んで、日本株が下がったとします。
もともとそんなことで中央銀行が動くほうがおかしいのですが、
今の日銀なら株価を上げようと何かやるでしょう。
しかし口先で市場を誘導しようとしても、うまく行かないかもしれません。
特にFRBが考える方と逆であった場合、市場はFRBに従うはずです。
それが「中央銀行としての信認の差」なのです。
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ワイルドインベスターズ株式会社