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週末だけのグローバル投資コラム

中国新型コロナウィルスの衝撃 (4)生き残りバイアスと「ウイルス弱毒化説」「生物兵器説」

2020年02月04日(火) 15:48。

中国の新型肺炎に関して意見交換する中で、興味深いと思ったことを整理します。

今回は「生き残りバイアス」「ウイルス弱毒化説」「生物兵器説」の話です。

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「生き残りバイアス」とは、生き残った個体だけを見て母集団の傾向や
規則性を判断してしまうデータ分析上の罠のことです。

たとえば小型株は大型株よりもパフォーマンスが良いというデータがあります。

しかしそれは「その時点まで生き残った会社のデータだけ」を集めればそう見えるだけ。

それ以前に潰れてしまったり、
上場をやめてデータが取れなくなった会社のことは考慮されていません。

このことを考慮すると、
小型株のパフォーマンスはそれほど大きく大型株を上回っていないという説があります。

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今回の新型肺炎に関し

「ウイルスは必ず弱毒化するので大丈夫」

「結局は沈静化するから騒がないほうが良い」

と言う人もいます。

私はそれを「大きな生き残りバイアス」のひとつだと感じます。

人類は今まで滅びたことないため、
「必ず生き残る」という結果から法則を導き出しているということです。

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北米には、
欧州からの開拓者によって持ち込まれた天然痘などの疫病で絶滅した部族があります。

もし彼らに話を聞くことができたなら「疫病なめんな。全滅するぞ」と説教されるでしょう。

しかしそのような人の子孫はごく少数なので、危険性を語り継ぐ人も少ないのです。

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ウイルスが「広がるうちに弱毒化する」メカニズムは理解できます。

あまりにも毒性が強いウイルスは、
宿主(ホスト)がすぐに死んでしまうので拡散しにくいのです。

それよりも少し毒性が弱いほうが、
宿主が出歩いたり看病されたりする間に周囲に拡散します。

弱毒性のほうが先に人々に広がって、抗体を獲得する人が増えます。

するとたとえ強毒性のウイルスが遅れて広がっても、
それによって重篤な症状を起こす人は減るわけです。

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ウイルスにしてみれば、ホストは生かさず殺さずが原則です。

しかしそんな戦略を考えながら生きているわけではありません
(そもそも生物ではありませんし)。

だからときどき出来の悪いやつが現れたり、本来の宿主以外に感染して悪さをします。

それで絶滅させられた生物もいるはずです。

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したがって、以下のようなことは言えると考えます。

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- 人類は、疫病に対して粘り強く戦っているうちに免疫を獲得する

- 病原のほうも、無害な種が広がって結果的に弱毒化する傾向がある

- 衛生・医療システムが機能しているうちは時間が人間に味方する

- したがって移動制限などで時間を稼ぐことは無駄ではない

- 衛生・医療システムが十分でない地域は、
より過激な手段(隔離・封鎖)で時間稼ぎせざるを得ない
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しかしこれはあくまでも医療関係者を中心に、人々が懸命に戦った「結果」なのです。

それを度外視して

「俺が罹患しても構わねえ。周囲に広めても構わねえ」

「そのうち弱くなるから拡散してもヘーキヘーキ」

と考えていると、まだ弱毒化していないウイルスがあっという間に拡散します。

さらに変異を起こして手に負えなくなります。

そのようなマインドは、新興国に近いものがあるでしょう。

新興国は衛生・医療システムが十分でないうえに、
教育が行き届いていないために致死率が上がってしまうのです。

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今回はある人から、インド工科大学の論文をご紹介いただきました。

新型肺炎(2019-nCoV)の4つの挿入部分がエイズウイルスに似ているとのこと。

ただしこの論文はまだ査読前であり、後述する理由により今は撤回されています。

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Uncanny similarity of unique inserts in the 2019-nCoV spike protein to HIV-1 gp120 and Gag
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.01.30.927871v1
doi: https://doi.org/10.1101/2020.01.30.927871
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Abstract
We are currently witnessing a major epidemic caused by the 2019 novel coronavirus (2019-nCoV).
The evolution of 2019-nCoV remains elusive. We found 4 insertions in the spike glycoprotein (S)
which are unique to the 2019-nCoV and are not present in other coronaviruses.
Importantly, amino acid residues in all the 4 inserts have identity or similarity to those
in the HIV-1 gp120 or HIV-1 Gag. Interestingly, despite the inserts being discontinuous
on the primary amino acid sequence, 3D-modelling of the 2019-nCoV suggests that they converge to constitute the receptor binding site.
The finding of 4 unique inserts in the 2019-nCoV, all of which have identity /similarity to amino acid residues
in key structural proteins of HIV-1 is unlikely to be fortuitous in nature.
This work provides yet unknown insights on 2019-nCoV and sheds light on the evolution and pathogenicity of this virus
with important implications for diagnosis of this virus.

(略)
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私にはこの論文の価値や真贋を見抜く能力がありません。

それでも、わずか1か月ほどでこんな分析が出回るのかと感心しました。

そして

「タイ政府が抗エイズウイルス(HIV)薬とインフルエンザ薬を併用投与したら
症状が劇的に改善した」

という発表を聞き、人類の知能ってすごいなと思いました。

そうであれば「免疫に働きかけて自分の肺を攻撃する」という噂も、
本当かもしれないと考えました。

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タイ政府「新型肺炎、エイズ・インフル薬で症状改善」
2020/2/2 19:03 (2020/2/3 14:31更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55159240S0A200C2FF8000/
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タイ保健省は2日、新型コロナウイルスによる肺炎の治療で、
症状が劇的に改善した事例を見つけたと発表した。

バンコクにある国立病院の医師が、中国人旅行客の重症患者に、
抗エイズウイルス(HIV)薬とインフルエンザ薬を併用して投与したところ、
病状が回復しウイルス検査で陰性になったのを確認した。(略)
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しかしこの論文を引用し

「HIVウイルスが人工的に挿入されたと研究者らは言っている」

と、生物兵器であることを仄めかした人々がいたらしいのです。

研究者らは「誤解を与えてしまった」として、この論文を取り下げています。

私はそうは思いませんでしたが、
「insertions」などの単語を「(人工的な・意図的な)挿入」とでも解釈したのでしょうか。

勝手に誤解して生物兵器の根拠にする人がいたり、
その解釈を信じで研究者を叩いたりする人がいたり、世の中って大変です。

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私はいつも、できる範囲で「必然と偶然」を区別しようと心がけています。

そのため、ときには「妄想エンジン」をフル稼働させて陰謀論に浸ってみたりもします。

誰かの意図や戦略を推理し、現実と答え合わせをすることは無駄ではないと考えます。

そのほうが生き残る確率が高くなりますし、何よりも楽しい思考実験だからです。

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今回、生物兵器を疑う人々の気持ちはわかります。

「そんな都合の良いデザインで偶然ウイルスができるわけあるかい!」と思いますから。

ましてや武漢の生物研究所の近くから発生したとなれば、怪しさ倍増です。

「お漏らし」の可能性はゼロではないと思います。

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しかし一方で、

「人間は偶然の結果まで必然と考えたがるバイアスを持っている」

とも思います。

自然界には我々の知らないウィルスが無数にあるはず。

それが「たまたま」人間に害をなすと、徹底的に調べられます。

そして人間に害をなすウイルスには、
共通の特徴や傾向があっても全く不思議ではありません。

その結果、「あれに似ている」と騒がれるだけなのかもしれません。

これも一種の生き残りバイアスなのではないかと思います。

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今の社会が続く限り、ウイルスが人類を絶滅させるのは至難の業かもしれません。

あっという間に構造を解析したり、症状を緩和する薬を作れるからです。

情報が拡散するスピードが感染スピードを大きく上回ることも、
歴史上なかったことでしょう。

その間に各国は態勢を整えることができます。

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人類は自分たちで生存環境を改良し続けてきました。

そしてついには自分の体すら交換したり、再生させることまでできるようになりました。

本当に「とんでもない生物」だと思います。

一方で「生き残りバイアス」「群集心理」などといった、原始的な部分も多く残しています。

そのような心理から完全に逃れることはできないと自覚し、
自分の考えを疑ってみるべきなのでしょう。

(終)

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