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大前研一ニュースの視点

日銀/国内株式市場/国内医薬品産業/認知症治療薬

▼日銀 政策金利を0.25%に引き上げ
アベクロからの脱皮が始まった

日銀は先月31日、政策金利を0.25%程度に引き上げる方針を決定しました。

これについて、植田総裁は物価が上振れるリスクに注意する必要があり、
2%の物価目標の持続的、安定的な実現のため、
利上げが適切だと判断したと説明。

また今回示した物価見通しが実現すれば、
それに応じて金融緩和の度合いを調整していくことになるとも述べ、
さらなる利上げの可能性を示唆しました。

今回、植田氏は初めて学者らしいアプローチを行いましたが、
アベクロからの脱皮を明確に示すものでした。

私はこの利上げがまだ不十分だと感じていますが、
10年近く続く政策ミスからの脱却を行った植田氏が正しい一歩を
踏み出したことは評価に値すると思います。

しかしヨーロッパやイギリスの中央銀行、
そしてアメリカのFRBが4~5%以上の金利を設定しているのに比べると、
日本の金利は非常に低い状況です。

植田氏は必要であれば追加的な利上げも行うと述べていますが、
金利をさらに引き上げれば2000兆円近い個人金融資産が活性化しますので、
日本にとってはよい結果をもたらすと私は思います。

また日銀の禁じ手と言われた国債の買い取りも、
来年3月を目指して減らしていくようです。

このように正しい方向への一歩を踏み出したことは、
大変素晴らしいことだと思います。

 

 

▼国内株式市場 日経平均終値3万5909円
米不動産市場の悪化が、日本の経済に大きく影響

2日の東京株式市場で、日経平均株価の終値は3万5909円と、
前日比2216円下落して取引を終了しました。

下げ幅は1987年10月のブラックマンデーに次ぐ歴代2番目の大きさで、
1日にアメリカで発表された経済指標が予想を下回ったほか、
アメリカ市場で半導体などハイテク関連が売られたことで、
アメリカの景気減速懸念が広がったことが要因と見られます。

ブラックマンデー後にサーキットブレーカーを導入する証券市場が相次ぎました。

今回、サーキットブレーカーが発動するかと思われましたが、
現在のサーキットブレーカーは10%の変動幅に設定されており、
今回の下落幅は3万5909円で2216円の下落ということで、
10%には達していなかったためにサーキットブレーカーは発動されず、
そのまま大幅に下落したということです。

また日経平均の推移と対米ドルでの円レートの推移のグラフを
見ても分かるように、今回は植田氏の発言に影響を受けて、
円高へ大きく振れたようです。

前回のブラックマンデーでは、
私がニューヨーク・タイムズに発表した論文が引き金になったと言われています。

その論文が発表された翌月曜日に市場が急落し、
私は米ABCの番組に引っ張り出され、非難されました。

その際に私は金融経済が4%伸びている一方で、
実物経済は2%の伸びにとどまり、
そのギャップが問題を引き起こしたと説明したのですが、
この状況をAカップの胸にDカップのブラジャーを着けているものだと
例えたために、その後アメリカでミーティングに呼ばれたときには
「下着の専門家」と紹介されることもありました(笑)

今回の急落は、ハイテク株が関連したと言われていますが、
本当はアメリカの不動産市場の悪化が大きな要因だと考えます。

主要都市のオフィス空室率が2割を超えていることが問題になっており、
建物の価値は著しく低下しています。

日本の不動産市場においても注意は必要であるものの、
都心5区の空室率は5~6%でアメリカほどの状況には至っていません。

しかしマンハッタンでは場所によっては80%の空室率の建物もありますし、
ウォールストリートの証券取引所から数十メートルの場所にある
トランプビルディングも厳しい状況だと言われています。

これからもアメリカの空室率が高い状況が続くとなれば、
さらに今後の経済に大きな影響を与えることとなるでしょう。

またアメリカの雇用が予想よりも伸びておらず、
アメリカ経済がリアルに悪化していることも、
日本市場に大きな影響を与えている要因です。

 

 

▼国内医薬品産業 「創薬エコシステムサミット」開催
過去の薬害事件を乗り越えて、ドラッグロスの是正へ

政府は先月30日、「創薬エコシステムサミット」を開催しました。

会合では創薬スタートアップへの民間投資額を2028年に倍増するほか、
海外の新薬が日本で使えないドラッグロスの是正に向け、
26年度までに道筋を付けることなどを打ち出しましたが、
参加企業からは政府の支援策を歓迎しつつも、臨床試験の拠点整備、
人材確保および政府の薬価抑制策などの課題を指摘する声も上がったということです。

今回この創薬エコシステムサミットには岸田氏も出席し、
日本政府の考えを明確にして、創薬支援策の実施を強く求めました。

岸田氏は現在、大変な時期ではありますが、
政府としての責任を果たす姿勢を示しています。

日本では、過去に海外で承認されたチバ製薬による薬が日本で
立証されないまま使用され、サリドマイド事件が発生したことから
非常に慎重になっています。

その結果、赤ちゃんや特殊疾患を抱える少数患者向けのよい薬が開発されても、
日本での治験にはインセンティブがないという現状があります。

私は以前から、特定の国で承認された薬は自動的に日本でも使用でき、
薬価にも掲載されるべきだと主張してきました。

過去のサリドマイド事件により嫌がられるかもしれませんが、
海外の認証システムをしっかりと研究した上で日本でも
問題がないと判断されれば、日本での臨床試験は無用となり、
ドラッグロスを究極的にゼロにできると思っています。

香港では、既にそのようなシステムが取られています。

しかし日本の医者や病院は、国内での認証を行うことで利益を得ています。

海外で認証された薬については、
日本の医者も基本的にはOKだという考えでしょうが、
収益を得るために国内での試験が必要だと考える医者もいます。

製薬会社からのさまざまな支援は、
医者にとってはいいアルバイトになるわけで、
それは感心できるものではありません。

この問題を解決するためにも、
海外で認証された薬は自動的に日本でも使用を認めるべきだと私は考えています。

さらに日本も海外で行われる治験に参加すべきでしょうし、
日本が保留している一流国で認証された150もの薬の使用は
速やかにゼロにすることが必要だと思います。

 

 

▼認知症治療薬 「ドナネマブ」承認を了承
認知症進行を止める効果をどこまで上げられるかが今後の課題

厚生労働省の専門部会は1日、
米イーライ・リリーが開発したアルツハイマー病治療薬
「ドナネマブ」の承認を了承しました。

ドマネマブは軽度の認知症患者を対象に、原因物質の一つ、
アミロイドの塊を除去する効果があるもので、
同様の薬としてはエーザイと米バイオジェンの「レカネマブ」に続く、
国内2例目となります。

今回の承認されたドナネマブは、
日本でも信頼性の高いイーライ・リリーが開発した薬です。

ただしアミロイドベータなどを減らす効果というのは、
ドナネマブのテスト結果によると認知症の進行を3割ほど遅らせる程度であり、
進行を止めたり、認知症だった人の症状が全くなくなったりするものではありません。

レカネマブのケースでも、認知症初期から月に一度、
保険料が1割負担の場合で3万円程度を支払って
治療するといったメニューだったと思いますが、
進行を3割遅らせる程度の限定的な効果であるため、
もっと劇的な改善が期待されるところですが、
現時点ではそれで精いっぱいのようです。

先行して発売されているエーザイとバイオジェンが開発したレカネマブは、
既に薬価も決まっていますが、
イーライ・リリーは肥満薬でも収益を上げており、
アメリカでは肥満薬が主な収益の柱となっています。

今回のアルツハイマー治療薬も新たな大きな収益源となるでしょうが、
世界的に見ると、現在のアルツハイマー病患者は500万人で、
今後は国民のおよそ10%がアルツハイマー病患者および予備軍となりますので、
今の限定的な効果であれば今後どうなっていくかは疑問です。

-大前研一ニュースの視点